地下鉄
音楽も音も聞こえない所にいるせいか、思考が暗くなりがちになってしまう。

頭を振り、気分を変える。

ふと、目の前にぼんやり人の姿が見えた。

もしやと思い、近付いてみる。

「こんばんわ」

声をかけると、和服姿の老女が振り返った。

「こんばんわ。今日は良い満月ですね」

霧で月は見えなかったが、そうか。今日は満月なのか。

「そうですね。ところで行き先はお分かりですか? 分からなくなったのであれば、ご案内いたしますが」

「いえいえ、大丈夫ですよ。今は待ち時間なだけなんです」

明るく言って、老女は懐から一枚の切符を見せた。

< 15 / 31 >

この作品をシェア

pagetop