地下鉄
確かに老女には思い残すことはなさそうだ。

生前の美しい姿のまま、ここにいるのだから。

それは己の死を受け入れている証拠。

生を満足して、過ごした証拠。

「まあ望むならば、すぐに息子達に会わないことですかね」

「…何か心配ごとでも?」

「息子達は会社を立ち上げまして…。少々働き過ぎだと生前、もめましてね。孫達も寂しい思いをしていましたので、ちょっと…」

言い辛そうに、老女は語った。

「まあ死に行く私の言葉ですから、ある程度は意識してくれているとは思うのですけど…。なるべくなら、すぐに再会はしたくないと思いまして」

「そうでしたか…」
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