地下鉄
その存在は、奥の方にいた。

ずっと壁を見つめているのは、古い民族衣装に身を包んだ青年だ。

「何故…。何故こんな所に…」

「もしもし?」

声をかけると、ゆっくりと振り返る。

「ここがどこだか、お分かり…ですか?」

「ああ…。何となくは…」

「では、大人しく行ってくれますか?」

青年の目が僅かにつり上がった。

「ここへ来てしまったということは、そういうことなんですよ」

わたしは出来るだけ穏やかに声をかける。


< 23 / 31 >

この作品をシェア

pagetop