桜の下で ~幕末純愛~
寒い冬も終わり、陽射しが暖かくなってきた。

桜の木にも花が咲き始める。

桜夜は桜の木に登っていた。

気持ちいい。やっぱ春っていいな。

「またこんなとこに登ってっと旦那に怒られんで」

声と共に桜の木に登って来たのは昨年末に入隊した監察方【山崎蒸】だった。

「旦那って…小舅の間違いでしょ」

初めて山崎に会った時も木の上だった。

“木登りをする珍しい女”そこから二人は一気に仲良くなっていった。

「どっちでもええわ。怒られても俺のせいにせんといてな。あ、俺、忙しかったんや」

そう言うと山崎は木から飛び降り、走って行った。

だったらちょっかい出しに来なきゃいいのに。

桜夜は山崎の消えた方を見て笑った。

もうすぐ幕末に来て一年だ…。

長いような短いような…でも異常に濃かったなぁ。

風が花びらと共に桜夜の髪を揺らしながら吹き抜けていく。

少しだけ遠い目をした桜夜。

お母さん、どうしてるかな…。

総司は一年で帰った。じゃあ、私は?

総司の時は桜がキーワードだった…私は総司にくっついてきた形だから…キーワードなし?

ぷっ、私らしいっちゃーそうなのかな。

先の事は分かんないけど、今は未来に帰る気はないしね。

そんな様子を少し離れた所から見ていた沖田は胸が締め付けられる思いだった。

―もうじき一年。桜夜が元の時代に帰る方法が見つかるのでしょうか―

桜夜が花びらと共に風に吹かれる度にドキリとする。

―桜が満開になったら?―

沖田は思わず桜夜の元へ駆け出した。

「桜夜、降りてきて下さい」

平静を装っていても普段と違う様子の沖田に桜夜は少し驚いた。

「どうしたの?」

木から飛び降りた桜夜が聞く。

沖田は何も言わずに桜夜を抱き締めた。

「そっ、総司!?」

少し震えてる?まさか、ね。

「総司、私は消えないよ?」

桜夜は何となくそう言わなければいけない気がして、自然と“消えない”と言葉がでた。

その言葉にハッとした沖田は桜夜を離すと

「すみません。どうかしてました」

と、桜夜を見ずに行ってしまった。
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