桜の下で ~幕末純愛~
その頃、土方の拷問により古高が口を割った。

その計画に誰もが驚愕する。

【六月の風の強い日。御所の風上に火を放ち、それに乗じ松平容保を殺害。考明天皇を奪う】

「すぐさま阻止せねばならん」

近藤と土方は事を急いだ。

しかし困った事に山南を始め、体調を崩している者が多く動ける隊士は34名。

そこで近藤は会津藩へ応援の要請をする。

そして六月五日の夜、祇園会所にて合流と手筈を整えた。

予め羽織や防具、武器を祇園会所に運び込み、その時を待った。

急激に慌ただしくなった屯所内に桜夜は戸惑いと不安ばかりが募る。

桜夜に出来る事は自分の仕事をこなすだけだった。

そして運命の日がやってきた。

隊士達は夕刻、怪しまれない様に数人ずつに分かれ、まるで巡察や娯楽に行くかの如く屯所を出ていく。

「では、行ってきますね」

沖田も同様に出発しようとしている。

「気を付けてね。無理しないで…。それから…」

どう頑張っても不安は拭い去れない。

「そんな顔をしないで。それじゃ、まるで私が死ぬみたいな顔してますよ」

「ちがっ…違うよ!だけど…」

「なら、そんな顔しないで下さい。それに私の強さは桜夜も知ってるでしょう?必ず戻ります」

私は待つしかできない…。信じて待つしかない。

「ん…。信じてる」

沖田は桜夜の頭を一撫でし、振り返らずに屯所を出発した。

屯所が急に静まり返る。

今まで慌ただしかった分、余計に静かに感じた。

桜夜は一人部屋に居た。

一人の部屋は異常に広く思えた。

何時頃だろう…総司が血を吐くのは…。

大丈夫。必ず戻ってくるから。

発症したとしても戻ってくる。

私は総司の側に居ると決めたじゃない。

それを受け止めなきゃいけないんだ。

覚悟を決めなければいけない。

桜夜は背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を見つめたまま待ち続けた。

隊士達は続々と祇園会所に集まり始めていた。

池田屋事件が始まりを告げる。
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