桜の下で ~幕末純愛~
「会津藩はまだか」

近藤のため息が辺りに響く。

約束の時間はとっくに過ぎていた。

しかしいくら待っても応援が来る気配などない。

「待つだけ無駄だな」

それまで黙っていた土方が言う。

「これ以上は無理か…。仕方ない、我々だけで行くぞ」

近藤達は隊を二つに分けた。

鴨川を境に西側を近藤隊、沖田・永倉・藤堂等10名。

東側を土方、原田・斎藤等24名が調べあげていく。

捜索を始めてから数時間後、ようやく近藤隊が池田屋を突き止めた。

近藤は沖田・永倉・藤堂を連れ、池田屋内へ。残りを表裏の出口を固めさせた。

「ご用改めである!」

近藤の声が池田屋に響く。

池田屋主人は二階に向かい

「旅客調べでございます」

と叫んだ。

主人を近藤が張り跳ばし気絶させる。

近藤は下階を永倉・藤堂に任せ、沖田を連れて二階へ駆け上がった。

そして座敷を開け声を張り上げる。

「新撰組局長近藤勇である。神妙に致せ!」

それに慌てふためいた浪士達は一斉に逃げ出す。

しかし下階に繋がる廊下には沖田。

通れる者など少なく、窓から逃げた者、沖田から逃れられた者達も下階で控える永倉・藤堂が行く手を阻んでいた。

廊下に出てきた浪士達を片付けると沖田は座敷へ入る。

近藤と対峙する一人の浪士―の他に壁に凭れて不敵な笑みを溢す浪士がいた。

カチャ

沖田は壁際の浪士に向かい刀を構える。

「見物ですか?随分と余裕ですね」

沖田が言うと浪士は壁から背を離し

「へぇ。アンタできるね」

と刀を抜いた。

「そうだな、名位は聞いてあげるよ」

ニヤリと浪士が笑う。

「先に名乗るのが筋でしょう?」

沖田もフッと笑った。

「吉田稔麿」

そう言うと沖田に向かって斬り込んでいく。

沖田はそれを避け、一旦間合いを取ると自らを名乗り、吉田に斬り込んでいく。

その頃、下階では二階から逃れて来た者達との大乱闘が繰り広げられていた。

東側捜索中だった土方隊は西側であったと気付き、近藤隊の方へ急いで向かっていた。
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