桜の下で ~幕末純愛~
結局桜夜は月が沈むのを眺めながら朝を迎えた。

朝か…。まぁ、寝てたら凍死してただろうし…。

それもよかったかな…。

私ってば…何、言ってんだろ。

桜夜は朝餉の支度に取りかかった。

暫くするとナミが現れる。

「お桜夜ちゃん。もう始めてたのかい?ここのところずっと早いじゃないか」

ナミさんにはこれ以上心配かけちゃいけない…。

「あはっ。人が増えてんのに仕事量減ってないし…ここに住んでるのは私だけだから。少しは先にやっとけば楽ですからね」

「そうかい?でも、お桜夜ちゃんは今日休みじゃなかったかい?」

え?そうだった?

「忘れてた…」

「後はいいから、部屋に戻ってもう一眠りしておいで」

ナミはそう言って桜夜の背中を押した。

台所を出された桜夜は行き場がなく、困っていた。

…私の行動範囲って狭いなぁ~。

トボトボ歩いて庭に向かおうとする。

私が行ける場所って言ったら…木の上しか残ってない。

すると後ろから腕を掴まれた。

「逃げんじゃねぇぞ」

ひじぃ…。逃げんに決まってんじゃんっ!

桜夜は腕を振りほどこうとするが、土方の力には敵わない。

「行くぞ」

土方は抵抗する桜夜を引き摺りながら自室へ向かう。

「離してくださいよっ。つーか、そこ土方さんの部屋じゃないですかっ」

「文句あんのか」

「ありますよ。土方さんの部屋、煙いから嫌ですっ」

土方は構わずに自室の襖を開けると、敷いてあった布団に桜夜を放り投げた。

「とりあえず寝ろ。起きたらしっかり話してもらうからな」

それだけ言うと土方は出て行った。

ひじぃ…部屋、煙くない。換気しててくれた?

鬼の副長って呼ばれてる癖してちっとも鬼じゃないんだから。

こんな時に優しくされたら…気持ちが揺らいじゃうよ。

桜夜はそう思いながらも放り投げられた格好のまま、いつしか深い眠りについた。

次に目覚めた時には土方が机に向かっており、布団が掛け直されていた。
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