桜の下で ~幕末純愛~
ここ…は?ひじぃ?あぁ、結局寝ちゃったんだ…。

土方の後ろ姿を見つめた。

「随分と寝ててくれたもんだな。ボサッとしてねぇで畳めよ」

振り向きもせずに土方が言う。

私、どんだけ寝てたんだろ。

桜夜は言われた通りに布団を畳み、正座する。

「すみませんでした。ありがとうございました」

桜夜が言うと土方は桜夜の方に向き直り、煙管に手を伸ばした。

煙いからヤダつってんのにぃ。

でも…寝てる間はガマンしててくれたんだ。

「で?何があった」

これで言わなかったらどうなるんだろ。

「………」

「その口はお飾りか?話せ」

お飾りでいいよ…。

「総司の部屋を出ました。以上です」

「そんな事ぁ夕べのうちに分かってんだよ。何かあったから出たんだろ。それを話せつってんだ。いちいち言わせんじゃねぇ」

う゛…。言いたくないから言わないんじゃんかっ。

「理由は分かりません。ただ出ろと言われたので」

色情婦なんて言えない。

土方は小さくため息をつく。

「どうやっても言わねぇ気だな。で、何処で寝起きしてんだ」

「台所の…」

「あ゛?何だって?」

「だからっ、台所ですっ」

「あんな所でか?夕べはどうした。布団すらなかっただろ」

ひじぃが邪魔したからじゃんっ。

「寝てません…」

「道理で…ひでぇ顔だった訳だ」

桜夜は思わず俯く。

暫くの沈黙…

気付くと桜夜と土方との距離が縮まっていた。

「土方さん?」

その瞬間、桜夜は土方の腕の中に居た。

「ひ、ひじっ…」

桜夜が体を堅くすると抱き締めた腕の力が強くなる。

「俺にしとくか?」

え?今、なんて?

桜夜が驚いて顔を上げると土方の端整な顔が目の前にあった。

「拾ってやるって言っただろ」

今にも触れそうな距離で土方が囁く。

「こ、こんな時に冗談はやめて…下さい」

土方の手が桜夜の頭を撫で

「本気だ」

と桜夜の顔を土方の胸に引き寄せた。

ひじぃ…あったかい…

桜夜は土方の腕の中で目を閉じた。
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