桜の下で ~幕末純愛~
どれだけ腕の中に居たのか、ふいにその腕がほどかれた。

「ゆっくり考えればいい。急ぎはしない」

ひじぃ…

「後で平助のところから荷物を持って来い」

「え?」

「此処で寝ればいい」

「そ…それは…」

「心配すんな。取って喰いはしねぇよ」

いや、そう言う問題でなくて…。

“色情婦なのでしょう”

“土方さん辺りでいいのではないですか”

沖田のセリフが頭の中でグルグルと木霊する。

桜夜の返事を待たずに土方は立ち上がった。

「行くぞ」

は?

「呆けてんじゃねぇよ。どうせ暇なんだろ」

土方は桜夜を町へ連れ出した。

久々の賑わった町に桜夜も自然と笑顔になる。

「そうやって笑っとけ」

土方の言葉にハッとした。

私、今まで笑ってなかった?

そっか、笑ってなかったんだ。

その晩、藤堂の部屋へ布団を取りに行く。

「土方さんと話、したから。もう心配しないで」

藤堂にそう言うと台所に向かった。

ひじぃの部屋に行ける訳ないじゃん。

すると台所の手前で土方が待ち構えていた。

「そんな事ったろうと思った」

ひじぃ…先回りかいっ。

「…私が何て言われてるか、知ってるじゃないですか」

「それがどうした」

どうしたって…。

「誤解されますよ」

「勝手に言わせておけばいい」

「そんな訳にはいかないじゃないですか」

「…お前が誤解されたくないのは一人だろ?」

あ…。

桜夜は黙り込んでしまった。

「今夜は酷く冷えそうだ。ちゃんと布団かけろよ」

そう言って土方は行ってしまった。

…誤解されたくないのは一人。総司…。

桜夜は布団を頭から被って考える。

ひじぃの腕の中はあったかくて安心できた。

死ぬまで守ってくれそうな気がした。


あの腕に守られてればずっと笑っていられる。

私が本当に欲しいのは何?守られるだけの人生?

それとも…

その頃、土方は沖田の部屋へ向かっていた。

―面倒臭ぇ餓鬼共だ―
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