桜の下で ~幕末純愛~
沖田の部屋の前に着く。

ゴホ、ゴホッ…

咳き込む音が聞こえた。

―あいつ、いつまで治らねぇんだ―

「おい、入るぞ」

返事も待たずに襖を開けた。

「どうしたんですか?こんな時間に」

「総司、医者には診せたのか?」

「たかが咳じゃないですか。そんな話を ゴホッ しに来たのではないでしょう」

―桜夜の事でしょう―

「分かってんだろ。何があった」

「聞いてないんですか?」

「頑固でな。口を割らねぇ」

―言ってない?―

「ゴホッ 土方さんには関係ないでしょう?」

「まぁな。じゃ、お前はあいつを捨てたんだな」

―捨てた?出来る事ならしたくなかった…―

「………」

「ならいい。あいつは俺が貰っとくさ」

沖田の目が一瞬だけ見開いた。

「フッ、驚く事じゃねぇだろ。てめぇはもう捨てたんだ。遠慮はしねぇよ」

―死ぬしかない私より、健康な土方さんなら幸せになれるでしょう―

「ま、あいつはまだ男を知らなそうだしな。暫く遊ぶ分には丁度いい」

「遊ぶ?」

土方の一言に沖田の表情が変わった。

「それがどうした?何度も言わせんな。お前は“捨てた”んだろ。拾ってやるだけ有り難ぇじゃねぇか。それにあいつは此処の色情婦って噂じゃねぇか。仕事させてやるだけの事だ」

土方が一気に煽る。

―色情婦…仕事―

沖田は土方の胸ぐらを掴で叫んだ。

「ふざけるなっ!貴方が本気なら、桜夜を幸せにしてくれるなら、先のない私より…ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ…」

急に叫んだ事で激しい咳が沖田を襲う。

「総司!」

崩れ落ちそうになる沖田を土方が支える。

「お前…先がないって、まさか…」

沖田が肩で息をしながら答える。

「ええ。労咳です」


「!!」

「私では桜夜を幸せには ゴホッ 出来ないんです」

土方は沖田を支えながら天を仰ぐ。

「ふざけるなはこっちの台詞だ。てめぇは死ぬから幸せにはできねぇっていうのか?」

その声は微かに怒りが含まれていた。
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