桜の下で ~幕末純愛~
山南の部屋でいつもの様に他愛のない会話をする。

まるっきり普通…さっきのは何だったんだろう…

「さぁ、そろそろ仕事再開ではないのかい?」

山南が言う。

あ、そんな時間?

「そうですね。じゃあ、また来ますね」

「ええ、ではまた」

山南の部屋を後にし、歩きながら考える。

結局さっきのは聞けなかったな。

聞いちゃいけないって感じだったし…でも聞かなきゃいけない気もするし…

あ、お饅頭の余り、持ってくんの忘れちゃった。…ま、いっか。

桜夜がぼんやり歩いていると誰かとぶつかりそうになった。

「あっ、すみませ…近藤さん」

「桜夜殿。…さっきは嫌なところを見せてしまったね」

「いえ。気にしない事にします」

メチャ気になるけどね。

「お詫びと言う訳ではないが、花林糖を頂いたんだ。今度一緒に食べないかい?」

「わぁ、かりん糖ですか?食べますっ」

次に桜夜が休みの日、近藤の休憩がてら一緒にお茶をする約束をした。

かりんと。それだけで元気になれるわ。

って、お饅頭食べたばっかだけど。

つーか、忘れてたけど私、女子高校生だし。甘いもので喜ぶのって普通じゃない?

…お団子とかお饅頭とか…ちょっとズレてるけど。

桜夜は張り切って仕事を再開した。

夕餉の片付けも済み、全ての仕事が終わると部屋へ戻る。

沖田が丁度、巡察に出る時だった。

「あ、もうそんな時間?気を付けてね」

「ええ。桜夜、お菓子は?」

あ…ヤバ。

「ゴホッ その顔は、忘れましたね」

「ん~、余らなかった事にしといて?」

「許しません」

沖田は桜夜のおでこをピンと弾いた。

「いったっっ。デコピン!?」

「行ってきます」

沖田はクスクス笑って出ていった。

沖田の元に戻った時から二人はよく笑う様になった。

先の見えているこれから。

短いなら最期まで笑っていようとあの夜に決めた。

嬉しい、楽しいを二人で倍にして後悔のない最後を迎えようと。
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