桜の下で ~幕末純愛~
翌日も桜夜は山南の元を訪れる。

「山南さん、稲葉です」

…あれ?居ない?

暫くしてスッと襖が開く。

「すみません。少し考え事をしていました」

「今日は金平糖です。総司のですけど」

桜夜は悪戯っぽく笑った。

「沖田くんが知ったら大変な騒ぎですよ。さ、どうぞ」

山南はいつもと変わらない顔で迎えてくれた。

普段通りの会話をしていたが、ふいに山南が未来の話をしてほしいと言い出した。

イキナリ何で?…まさか近い?

あーっ、詳しい日にちが分かんないよ。

それでも桜夜は言われた通り未来の話をした。

勿論、歴史に関する事は言えないが、出来るだけ山南が楽しいと思える事を選んで話をした。

桜夜が話終えると、山南は酷く嬉しそうな顔をしていた。

「有難う御座います。桜夜さんの時代、見てみたかったですね。おや、もう時間ですね」

山南に促され桜夜は仕事を再開する。

…なんっかオカシイ。

桜夜は一日モヤモヤしたものが消えなかった。

仕事を終え、部屋に戻ると沖田が待ち構えていた。

「桜夜 ゴホッ 私の金平糖」

「えっ?もうバレた?」

ずいぶん早いな。

「ええ。山南さんに聞きましたからね ゴホ、ゴホッ 先に言ってくれればよかったのに」

えっ、山南さんっ。チクリ?

「ごめん。お茶菓子見付からなかったんだもん。総司も見当たらなかったしさ。先に言ったらくれた?」

「いいえ」

く、くれないんだ…。

あ、そうだ。山南さん…。

「あ、あのさ。山南さんなんだけど…今日、何となく様子がおかしかったの」

「先程は普通でしたよ?」

桜夜はそのままを話した。これから来る山南の運命は言えずに…。

「そうですか。では ゴホッ 暫く注意して見ておきますね。大丈夫ですよ ゴホッ」

心配そうな桜夜の顔を見て、沖田が頭をクシャっとする。

しかし、翌朝には桜夜の不安が的中した。

山南は《江戸へ行く》と置き手紙を残し、屯所から消えていた。
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