桜の下で ~幕末純愛~
“忙しいねぇ”

あんたは暇だろっ。

“お桜夜がやるだろ”

あんたらがやらないからだろっっ。

“越すって西本願寺だろう?”

“ここは手狭だからねぇ”

“でも山南さんのきっかけはそれだと言うじゃないか”

あ…。ううん、あのエロオヤジのせいだ。

桜夜はチラッと沖田達を見る。三人共表情は変わらない。

“まぁ、その前から廃人の様だったじゃないか”

あ゛?何だとー。

“お桜夜が足繁く通ってたがね”

“此処の色情婦だろ。慰めてたんだろうよ”

沖田と土方がピクリと動く。

桜夜は二人に首を振る。

“しかしお桜夜は沖田さんと同室って言うじゃないか”

“沖田さんが買ったのかねぇ”

はぁぁ?…お金は貰ってないけどちょっとだけ正解?

“外でも斬って仲間内も斬るじゃないか、よく住んでられるもんだ”

向こうが先に斬りかかってくるから仕方なくでしょ。仲間内って…あれは違う。

桜夜はだんだん隠れて聞いているのが嫌になってきた。

総司達に私の悪口聞かれてるんだもん、ヤだな。戻ろうって言おう。

三人に目線を移すと沖田は見るからに不機嫌で殺気を放ち、土方は眉間に皺を寄せ、近藤は腕組みをしながら目を閉じていた。

“皆、人を斬りすぎて人情ってやつを捨てちまったんだねぇ”

“心がないんだねぇ”

それを聞いた瞬間、桜夜の中でプチッとキレた音がした。

拳を握りしめプルプル震えだす。

それに気付いた沖田が小声で桜夜に言う。

「桜夜、キレたらいけませんよ。一旦此処を コホ 離れましょう」

「は?何で?私、実は女子高生じゃん?キレやすいお年頃ってやつ?」

既に小さな声は出せなくなっていた。

桜夜は近藤の方を向くと

「すみません。って先に謝っときます」

そう言うと台所に入って行く。

桜夜の登場に驚いた女中達は気まずそうな顔をする。

沖田達はまだ隠れていた。

“お、お桜夜。何だい?仕事はどうしたんだい”

“休んでる暇はないだろう”

のうのうと言う女中らにとうとう黙っていられなくなった。
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