桜の下で ~幕末純愛~
桜夜に押され、沖田は渋々船内に入る。

「こうでもしないと桜夜に会えないのに。ケホ 冷たいですね」

「ケガしてる人、いっぱいいるんだよ?仕方ないじゃない」

桜夜は沖田と手を繋いだ。

「それが分かっているから今まで大人しくしていたんですよ? ケホ 今夜は添い寝しましょうね」

「一人で寝てよ」

「嫌です」

笑いながらふざけ合っていると、微かに呻き声が聞こえてきた。

いち早く気付いたのは沖田だった。

「山崎くんの声です」

烝くん?!

桜夜と沖田は急いで山崎の元へ向かった。

山崎は苦しそうに呻いていたかと思うと、段々と意識が朦朧とし出した。

「土方さんを呼んできます コホ」

最期だと解った沖田は土方を呼びに行った。

「烝くん!烝くん!!」

桜夜が必死に呼び掛ける。

閉じていた山崎の目がうっすらと開いた。

「烝くんっ。私だよ、分かる?」

「桜夜…か?」

「うん。しっかりして!着いたらお医者さんにまた診てもらうんだから」

山崎は少しだけ口角を上げ、一度だけ首を横に振った。

「もう…あかん。自分……の体や…分か…る……」

「やだっ!ダメだよ!!」

山崎は震える手で桜夜に苦無を差し出す。

「…もう……失敗したら…あかん……で。副長に…怒ら……」

手に持った苦無がコトンと落ちる。

「いやぁ~っ」

桜夜の叫び声が船内に響いた。

沖田と土方が駆けつけた時には山崎を抱え泣き叫ぶ桜夜の姿があった。

「桜夜」

沖田が静かに山崎から桜夜を引き離す。

桜夜は床に落ちた苦無を拾い上げギュッと握り締めると沖田の胸で泣き崩れた。

苦無を握り締めた桜夜の手からジワリと血が滲む。

土方は山崎を抱え別の場所へと運んだ。

十三日、紀州沖で山崎の水葬が営まれ、肩の傷が酷かった近藤も正装で追悼の意を述べた。

沖田は苦無で傷付いた桜夜の手をそっと握った。

桜夜は溢れ落ちる涙をそのままに沖田の手を握り返した。
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