桜の下で ~幕末純愛~
桜夜は植木屋の主人に教えてもらった道を小走りに進んでいく。

暫く行くと教えてもらった目印の酒屋が見えてきた。

あった。あそこの角を曲がればナミさんの家だ。

桜夜は駆け足で角を曲がった。

「ごめんください」

大きな声を出す。

すると奥から懐かしい声が聞こえてきた。

「はい、はい。どちらさんで?」

「ナミさんっ!」

その声に嬉しくなり満面の笑みになる桜夜。

「お桜夜ちゃん!どうしたんだい?!無事だったんだね。よかったよ」

二人は抱き合い再会を喜んだ。

ナミの家に上げてもらい、お茶を飲みながらゆっくり話をした。

下阪後に近藤が撃たれた事。敗戦や井上、山崎の死。海路で江戸に向かい、今は甲州へ出陣した事。他にも話す事は次々にでてきた。

気付いた時には夕方になっていた。

「いけない!直ぐ戻るって言ったのに。ナミさんもう行かなきゃ」

桜夜が立ち上がる。

「お桜夜ちゃん、もうじき日が暮れるよ。今から帰ったら危険だよ。泊まっておゆき」

早く戻って総司を待ちたいけど…確かにこれから戻ったら危険かもしれない。

「じゃあ…お願いします」

桜夜は一晩だけ泊めてもらう事にした。

その夜はナミと隣合わせにに布団を敷き、布団に入ってからも話は尽きなかった。

「沖田さんはどうなんだい?」

「今は落ち着いてるみたいで皆と甲州に向かいました」

「しかし、治る病ではないだろうに」

そう…先にあるのは死……。

「治らないから後悔しない様に、総司のしたい事をしてもらうんです」

「戦から戻ったらずっと今のところで療養するのかい?」

ずっとあそこで?考えた事なかったな。

「そこまで考えてませんでした。そっか…この先の事か…」

「気を悪くしないで聞いておくれよ。この先、沖田さんが本当に床から出られなくなった時、どうするんだい?うつる病だ、快く置いてくれるかね?」

……確かにそうだ。この先どうあがいても総司は悪くなる。

「ここから少し離れたところだが使っていない家があるんだよ。本当に小さな小屋の様なところだがね。二人で暮らす分には不便はないと思うよ。お桜夜ちゃんと沖田さんがいいなら、そこを使わないかい?」

「ナミさん…本当に…?」
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