桜の下で ~幕末純愛~
桜夜にしたら願ってもない申し出だった。

この先、どんな医者に診せても答えは同じ“療養”

「二人で決めなきゃいけないとは思いますけど…もし総司が起き上がれなくなったら甘えてもいいですか?」

もしかしたら最後まで皆と戦いたいと言うかもしれない。

「勿論だよ。何を遠慮する事があるんだい?お桜夜ちゃんは私の娘の様なものだからね。明日、見に行ってから戻るといい。案内するよ。さ、そうと決まれば早く寝ようかね」

ナミが灯を消した。

翌朝、桜夜はナミに連れられ空き家を見に行った。

町から少し離れていたが、静かでゆっくりと過ごせそうだった。

家もこじんまりとしていたが小さいながら庭もあり、二人で暮らすには十分だった。

そして何より、庭に一本の桜の木があった。

桜夜は一目でその家が気に入った。

「どうだい?」

「はい。凄く気に入りました」

「そうかい。それはよかった。いつでもいいよ、必要になったら使うといい」

「ありがとうございます」

桜夜はナミに深く頭を下げお礼を言うと、沖田を待つ為、千駄ヶ谷に戻った。

その頃、甲陽鎮撫隊は日野に到着。佐藤邸に立ち寄っていた。

そこで、今まで調子の良かった沖田の体調が悪化。

激しい咳と発熱が沖田を襲った。

―こんな時に…何故…―

「総司。これ以上は無理だ。お前は戻れ」

土方が言う。

「やはり… ゴホッ 私はもう刀を握る事はできないのでしょうかね……ゴホ」

「何、言ってやがる。もう一度刀を握るために休めと言ってんだ。お前に無茶させたら五月蝿ぇのがいるんだよ。八つ当たりされちゃ堪ったもんじゃねぇからな」

―本当は分かってるくせに…気休めの言葉は辛くなりますよ―

「土方さんも ゴホ ゴホッ 桜夜には弱いですね」

沖田は千駄ヶ谷に戻る事となった。

そして桜夜がどれだけ待てば戻るのかと不安に駆られていた翌日には沖田が戻ってきた。

「あれ?何で?」

何だか拍子抜けしちゃったんですが??

「聞かないで下さいよ ゴホッ」

熱で顔を赤らめながら少しふてくされた様に布団に潜る沖田。

「総司?熱があるんじゃない?」

桜夜の呼び掛けに沖田は布団から顔を出した。
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