桜の下で ~幕末純愛~
そう言えば嫌って言えないのを分かっててするんだから…。

桜夜を掴んでいた手をクイッと引っ張る沖田。

しかしその力は簡単に振りほどける程に弱い。

…こんなに力が入らなくなったの?

それでも桜夜はゆっくり沖田の脇に寄り添った。

「もう ゴホッ やめましょう。ゴホ ゴホッ その気持ちだけで ゴホ 十分です」

「そんな事言わないでよ。今度の薬は効くかもしれないじゃない。まだ……」

話す桜夜の唇に沖田の指が触れる。

「この ゴホ 状態が現実です ゴホッ」

諦めるの?まだ戦いたいって思ってるのに?

「ゴホッ 体は動きません ゴホ が、心は皆さんと戦に出て ゴホ ゴホッ いますよ。だから ゴホ 私は大丈夫 ゴホッ」

やっぱりもう無理なの?歴史通りに全て進んでいくの?

「そんな顔 ゴホッ しないで? ゴホ ゴホッ 薬を飲むより、こうやって ゴホ 桜夜の温もりを感じていられる方が ゴホッ 私にとっては効果が ゴホ あるのですよ」

苦しそうに咳き込みながらも沖田の表情は穏やかだった。

その時なのかもしれない…。もう、二人で最期を迎えてもいいのかもしれない。

「総司。ここを出て二人で暮らさない?」

桜夜はナミと会った日の事を話した。

「ここのご主人はとても善くしてくれてるのは分かってる。けど、私は出来れば二人で過ごしていたい」

もうじき別れが来るなら、誰にも邪魔されずに一秒でも長く総司を見ていたい…。

「そう…ですか。ゴホッ ナミさんが ゴホ ゴホッ」

ここを離れたら皆の情報が入って来なくなる…やっぱり嫌だよね…?

「桜夜は ゴホッ その家を気に入りましたか? ゴホ」

「うん。二人で暮らすには十分な広さだし、庭に桜もあるの。寝ながらでも襖を開ければお花見も出来るよ」

「では ゴホ 団子を用意しなければ ゴホ ゴホッ いけませんね」

それって…いいの?いいって事だよね?

「早く桜夜の気に ゴホッ ゴホッ 入った家が見たいですね ゴホ」

沖田はニコリと笑い、桜夜の額に口付けた。

「ありがとう。ナミさんのところに行ってお願いしてくるね」

桜夜はそう言って痩せた沖田の体に腕を回した。
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