桜の下で ~幕末純愛~
十三日、板橋で幽閉中の近藤に対する審議が薩摩藩と土佐藩で行われていた。

薩摩藩は京へ送り正式な裁判にかけようと主張するも、土佐藩は処刑を主張。

審議は平行線を辿っている様に思えた。

しかし、土佐藩は江戸の大都督の許しを勝手に得てしまい、近藤の処刑が決定した。

そして二十五日、板橋にて近藤勇斬首。

その瞬間、桜夜と沖田の家の散りかけた桜の花が、風に吹かれ一気に散り果てた。

吹き込んできた花びらに桜夜も沖田も驚く。

「びっくりした。桜、どうしちゃったんだろう」

沖田も不思議そうな顔を向けた。

桜が散った…。もしかして誰かが?

もう四月も終わる……。

桜夜が不安気な表情を見せると、スッと沖田の手が桜夜の手に重なった。

沖田に視線を移すと、ニッコリと微笑んでいた。

そうだ。今まだここで生きてる。

笑っていよう。

目の前に在る幸せを忘れちゃいけない。

桜夜はその手を握り返し、笑った。

土方は旧幕府軍と共に宇都宮城にて戦い、勝利していた。

しかし壬生の戦いに敗れ、先立っての宇都宮城の戦いにて足を負傷していた土方は会津へ護送され三ヶ月程の静養を余儀なくされていた。

五月も半ばを過ぎようとしていた。

桜夜と沖田は変わらず、穏やかな日々を送っていた。

沖田の病状も変わらず、床に伏せたまま。

桜夜は毎朝、沖田の体を拭きながら今日は何をしようかと話をする。

そして沖田の口から出るのは毎回仲間の安否か傍に居てほしいだけだった。

“その時”が近付いてるんだよ…ね…?

不安に駆られながらも桜夜は笑っていつも同じ答えをする。

「皆、強いから大丈夫」

「嫌がられても離れてあげないから」

と。

そして史実通りであれば“その日”にあたる三十日。

日付が変わる前から桜夜は覚悟を決めなければと沖田の傍らで手を握ったまま、眠らずに沖田を見つめていた。

そして日付が変わった時、カタンという音と共に部屋の端に立て掛けてあった竹刀が倒れた。

桜夜がタイムスリップしたきっかけとなった約束の竹刀。

ドキンと心臓が音を立てる。

沖田に視線を移すと、すやすやと寝息を立てている。

桜夜はそっと立ち上がると竹刀を立て掛け直す。
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