桜の下で ~幕末純愛~
倒れるなんて縁起悪い事、しないでよ…。

色褪せたミサンガが揺れた。

生きてほしいってお願いしたんだ…。まだ結ばれてる。切れてない。

……ただの験担ぎなのにね。

今の桜夜にとっては何にでもいいからすがりたい。その気持ちで一杯だった。

再び沖田の脇に戻り、静かに手を握ると呼吸があるか確かめる。

布団が小さく上下しているのが分かると安堵のため息を吐く。

いつの間にか夜が明けていた。

今日が“その日”なら…落ち着け、私。

変わった行動はいけないね。勘のいい総司には直ぐにバレるから。

桜夜はいつも通りに沖田の体を拭き、いつも通りに何をしようかと話をする。

沖田からの返事も変わらない。

不安なまま昼を過ぎ、夜になっても沖田に変わったところは見られなかった。

あれ…??

そしていつの間にか翌朝を迎えていた。

え?過ぎた?嘘…生きてる……。

変わった?歴史が変わったの?

桜夜は嬉しくて朝から鼻唄が出る程、上機嫌になった。

歴史家の方々には悪いけど、もう歴史を変えるとか構ってられないしっ。

もしかしたらひじぃだって“待たせたな”なんて言いながら現れるかもしれない。

総司がこれ以上悪くならなければ二人で待っていられるかもしれない。

淡い期待を胸に、桜夜は沖田の体を拭く。

「随分と ゴホッ ゴホッ 嬉しそう ゴホ ですね」

そんな桜夜を見てクスクスと沖田が笑う。

「そう?うん、そうだね。今日はいい天気になるよ」

「天気? ゴホッ」

そんな事は聞いていないとばかりに沖田が首をかしげる。

そして、その日から沖田は同じ夢を見る様になった。

桜夜の家でこの時代に戻る前に見始めた夢と同じ。

誰かに語りかけられる夢。

―近付いてきたんですね―

目覚めた沖田は傍らで眠る桜夜に視線を移す。

―こんな体になってしまった私の看病を愚痴も溢さずに―

すっかり骨張った腕を桜夜に延ばし、その頬に触れる。

―そろそろ解放してあげねばなりませんね―

―未来で“いい加減返せよ”と怒っているんじゃないですか?ね、土方さん―

沖田の頬に一筋だけ滴が伝う。

―けれど…もう少し…もう少しだけ桜夜に触れていてもいいですか?―
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