桜の下で ~幕末純愛~
史実で沖田が亡くなったとされた日はとっくに過ぎ、季節は夏に移り変わっていた。

沖田の病状は改善される筈もなく、悪化を辿る。

最近は口を開き言葉を発するのも辛くなっている様だった。

それでもまだ生きている現実に桜夜は希望を持った。

夏が来た。とうとう総司が26歳になる。史実では25歳までだったよね?

「ねぇ?もういい加減に教えてくれてもいいんじゃない?誕生日」

「……嫌です…よ」

「そこまで頑固になる意味が分かんないんですけど…。じゃあ過ぎてからでもいいから26歳になったって教えてね」

そう言って桜夜は洗濯をしに行った。

―もうすぐですよ―

小走りに出ていった桜夜の後ろ姿を見て沖田は笑った。

そこから数日が経った朝方。奇しくも沖田の26歳の誕生日、その日。

まだ陽が昇り始めたばかりの頃に沖田は目覚めた。

今日の夢はいつも見る夢と少し違っていた。

―そうですか…とうとう来たのですね―

しかし不思議と心は落ち着き、体も気だるさが抜け軽く感じた。

―やはり桜夜は泣くのでしょうか。最期は笑顔が見たいのですが…―

まだ眠っている桜夜の顔を見つめる。

―私は貴女を泣かせてばかりでしたね?―

―私など選ばなければよかったのに…。そんな事を言えば貴女は怒るのでしょうね―

沖田は桜夜が目覚めるまで、愛しくてたまらないその姿を見つめ続けた。

どれだけ見つめていたか、ふいに桜夜と目が合った。

「やだ、起きてたの?起こしてくれればよかったのに…。おはよ」

「おはよう……口が…開いていて……可笑しな顔を…していま…した…よ」

桜夜は少し膨れる。

「もうっ、バカっ。ご飯の支度してくるね。食べたら体、拭こう」

隣の部屋で手早く着替えてきた桜夜は自分の布団を上げ、台所に向かおうとした。

「桜夜…」

そんな桜夜を沖田が呼び止める。

「ん?なに?」

桜夜が振り向くと沖田が体を起こそうとしていた。

慌てて桜夜が駆け寄る。

「ダメじゃない。無理しないで」

桜夜が再び寝かせようとするも沖田が首を振る。

「どうしたの?」

「膝…枕……して…くれま……せん…か?」

やだ…いつもの総司じゃない。

やめてよ。お仕舞いみたいじゃない。

桜夜の顔が曇った。
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