桜の下で ~幕末純愛~
桜夜が座ると脇差がソファーに当たる。

ああ…そっか…ソファーって沈むから当たるんだ。

腰から脇差を抜くと自分の横に置いた。

二人分のコーヒーを持って現れ哲也が驚く。

「何だよ、それ。刀か?」

脇差を知らない?そうだね…こっちでは刀としか思えないのかもしれない。

「脇差っていうの。護身用。使った事はないよ」

クナイも知らないんだろうな…。

コーヒーに手を付ける気にもなれず、重苦しい沈黙が流れる。

「今…何年何月?私はどの位いなくなってたの?」

ボソッと桜夜が聞いた。

「何年何月って…お前がいなくなってからは4ヶ月半くらいだ」

桜夜が驚いた顔をした。

「たった4ヶ月…?」

タイムスリップ自体が時間と月日の流れを変えるって事?

自分が元居た時代の流れは遅くなるの…か。

だから哲は制服なんだ。じゃあ私はまた15歳?

ああ…混乱しそう。

桜夜はギュッとその手を握り締める。

ふと自分の手を見ると左手の薬指に巻かれた髪紐。

4ヶ月なんかじゃない。総司と生きてきた日々を4ヶ月なんかに収めないで…。

やっと止まったと思っていた涙が溢れ出す。

帰ってきてから泣き通しの桜夜に狼狽える哲也。

「な…なぁ、少し落ち着けよ。泣いてるだけじゃ分かんねぇよ」

「……落ち着いてるよ」

頭ではもう十分過ぎる程、理解してるよ。

けど涙は止まらないのよ。止め方、教えてよ。

「俺、知ってたんだ…総司の事。新撰組の沖田総司だったんだろ」

「な…んで…?」

桜夜は俯いていた顔を上げた。

「総司に喰ってかかって言わせた。それからお前らが消えてから調べたんだ。総司の事も新撰組の事も…桜夜は幕末にいたんだろ?」

哲…全部知ってたの?タイムスリップの事も?

調べたって…?全部?

「何があったのか聞きてぇけど、一番心配してんのは親だぞ。おばちゃんが帰ったらちゃんと話してやれよな」

そう言うと哲也は再びキッチンへ行き、今度はお茶を持って現れた。

「今の桜夜にはこっちの方がいいんじゃねぇか?」

「哲…。ありがとう」

桜夜は一口だけお茶を飲んだ。

それから二人はただ黙って座っていた。

辺りが薄暗くなってきた頃、哲也が電気を付けた。

…眩しい。久し振りの電気って…目が痛い…。
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