桜の下で ~幕末純愛~
泣き通しですっかり腫れ上がった桜夜の目を見て、美沙子はどうしたらいいのか悩んだ。

「お母さん…おはよう」

「お早う。ねぇ、久々に一緒にお風呂に入らない?」

気を使ってくれてるの?

娘が帰ってきてこんな状態じゃ…お母さんも悲しいよね?

「うん」

「着物、クリーニングに出しましょう。服が嫌なら浴衣があるわよ?」

腫れ物に触るみたいに…そんなにしてくれなくてもいいよ?

「着物は自分で洗えるから平気だよ。浴衣じゃなくてもちゃんと洋服着るから」

「そう?じゃ、お風呂で待ってるわね」

美沙子が行くと桜夜はクローゼットを開けた。

久し振りすぎて何を着ていいのか分かんないや。

向こうに荷物置いてきちゃったね。

ナミさんが見つけたら驚くだろうな。

お母さん、困ってたね…。

総司、平助くんの時に言ってたよね…私が沈んでちゃ報われないって。

総司も報われない?

桜夜はTシャツとGパンを持って浴室へと向かった。

浴室からはシャワーの音が聞こえていた。

シャワーだ…。便利だよね。

桜夜は着物を脱いだ時にふと気付く。

あ…背中の傷…。

洗面台の鏡に背中を映してみる。

斜めに引かれた線を見て、桜夜は少しホッとした。

私が過去で生きていた証が残ってる。

浴室のドアを開けると湯気が腫れた目に滲みた。

「いらっしゃい」

美沙子が笑う。

先に言っておいた方がいいよね。

「お母さん、背中に傷があるの。訳は後で話すから…。驚かないでね」

「傷?どうして?ひどいの?」

「お風呂から上がったら話すってば。酷いのかは…どうだろう?私は馴れたから分かんないや」

桜夜は美沙子に背中を向け、傷を見せた。

「女の子なのに…」

美沙子の目が潤み始める。

「大丈夫。守ってくれた証だから」

そう言うと桜夜はシャワーを頭から被った。

「やっぱり便利だね。シャワーって」

桜夜がボソッと言う。

「江戸時代でしょう?どんな生活をしていたの?」

どんな生活か…。

「何でも自分でやらなきゃいけなくて…馴れるまで大変だったよ」

いつもナミさんが教えてくれてた。

ダメだ…また泣きそう。

桜夜はこれ以上美沙子を心配させまいと溢れそうになる涙を押し込めた。
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