桜の下で ~幕末純愛~
…沖田さんに女顔は禁句だね。おぼえとこ。

「すいませんでした、いきなり。しかも、口が悪くて」

哲也から離れたところで沖田から手を離し歩き始めた。

「いいえ。大丈夫ですよ。」

あ―沖田さん、戻った。

「それより、桜夜さん。【小林総司】とは?」

「あ、ごめんなさい。【沖田総司】はこっちでは凄く有名なんです。同姓同名ってどうかなって思って…つい…」

怒られるかな?勝手に名前を変えた!なんて言われちゃう?

「そうですか。私は皆が知った名なのですか。どう知られてるのですか?」

「新撰組、一・二を争う程の剣豪って」

「新撰組?」

あ、まだ新撰組になってない?

桜夜がまずそうな顔をすると沖田は悟った。

「…聞かなかった事にしておきましょう。それにしても、一・二を争う程の剣豪ですか。嬉しいですね」

「すみません…」

「クスッ。謝ってばかりですね。それより【小林】と名乗ってしまっては桜夜さんは【沖田】と呼べなくなりましたね」

あ…勢いだけで、そんなこと考えてなかった。どうしよう

「総司でいいですよ」

「え?」

「美沙子さんにも伝えなければなりませんね」

思ってもいなかった沖田の言葉に驚いた。

呼び捨てにされるのに抵抗ないのかな?

「あの、そこまで考えてませんでした。ごめ…」

沖田が言葉を遮った。

「ほら、また。謝ってはいけません。桜夜さんは何も悪い事をした訳ではないのですよ」

「はい。ごめ…あ…」

ぷっ。

桜夜と沖田は笑いあった。

「さ、早く帰りましょう。早く“ぷりん”をいただきたいのですから」

沖田は手を差し出した。

二人は自然と手を繋いで歩き始めた。

「呼んでみてください」

「え?」

「総司と呼んでみてください」

からかってる?確実に楽しんでるよ、沖田さんっ。

「えっと…そう…じ…さん?」

あぁ。絶対、顔が真っ赤だよ、私。

「さん、は余計と思いますが?ま、由としましょうか」

沖田は満足そうに笑っていた。
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