桜の下で ~幕末純愛~
「そ…それは、まぁ…そのうちに…そんな事より、これ。使ってもらえますか?」

竹刀を差し出す。

沖田が驚きの顔に変わった。

「竹刀ではありませんか!いいのですか?」

「はい。いつまでも箒で素振りって嫌でしょ?」

沖田は本当に嬉しそうな顔で答えた。

「ありがとうございます。実は、とてもやりにくかったので」

よかった。喜んでくれた。

「おや?これは?」

ミサンガに気付いた沖田が不思議そうな顔をする。

あ、やっぱり嫌だった?

「ミサンガです」

「みさんが?」

「それをずっと付けてて、切れたら願いが叶うって言われてて…作ってみたんです。あ、でもっ、嫌だったら外しますから」

沖田はミサンガを指でなぞり、優しい顔をして笑った。

「桜夜さんがご自分で作られたのですか?」

「はい」

「そうですか。では、大切にしなければなりませんね。して、何と願掛けを?」

「早く元の時代に帰れるようにって」

言えないよ ―生きて― なんて…

「それは困りましたね」

へ?なんで困る?

「私が帰るには早く切れてもらわねばなりませんが、折角桜夜さんが作った“みさんが”が切れてしまっては悲しいですから」

お母さんっ、桜夜は瞬殺されましたっ。反則だよ、その顔でそのセリフ…。

でも、喜んでくれてる。ホントによかった。

あ、これも言っちゃおうかな。今なら勢いもあるし。

「あの、お願いしてもいいですか?」

「お願い?」

「はい。えっと…元の時代に戻る時に、この竹刀も持ってってもらいたいんです」

何となく恥ずかしくなって俯いた。

「勿論です。お約束します」

ホッ。言えた。

「じゃ、戻りますね」

「「おやすみなさい」」

―この竹刀が…約束が…この先桜夜の身に起こる事に深く関わってくると言うことを…2人はまだ知らなかった…―
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