桜の下で ~幕末純愛~
壬生寺までは市バスで向かう。

「着いたね」

桜夜がつぶやいた。

沖田は黙ったまま、壬生寺を見つめている。

「大丈夫?」

「ええ。行きましょう」

――――――

一通り周り終えると、人影の少ない木陰に腰を下ろした。

「総司って何歳?」

昨日、夏が誕生日と聞いたが、詳しい事は教えてもらえなかった。

年齢くらいは教えてくれるだろうと思い聞く。

「22になりました」

22才…あと3年?たった3年?

もし総司がこのまま戻れなかったら…こっちなら治せるじゃない!ううん、発症すらしないかもしれない!

…言えない……

「桜夜は?」

「え?」

「桜夜の誕生日は?」

あ、私の年?

「11月だよ」

それを聞いた沖田は意外だという顔をした。

「何?」

「いえ。名に桜がつくので、春だと思っていました」

キタ。必ず言われるんだよね、春生まれ?って。

「絶対それ言われる」

「そうでしょうね」

二人で笑いあった。

しかし、何となく京都に来てから会話が続かない。

少しの沈黙の後、沖田がポツリと言う。

「聞き流していただいても結構なので、しばらく話してもいいですか?」

「うん」

それから沖田は自分の事を話し出した。

―4歳で父親を亡くした事―

―姉が2人いる事―

―幼名は宗次郎という事―

―9歳で内弟子となった事―

―試衛館の事―

―近藤と土方、そして仲間達の事―

桜夜は静かにただ聞いていた。

話し終えた沖田の顔は晴々としていた。

そして立ち上がり、桜夜に手を差し出す。

「聞いてくれてありがとう。お陰で靄が晴れた気分です。さ、行きましょう。お腹が空きました」

まるで、壬生寺に今までの総司を置きに来たみたいだよ…。

そう考えてたの?だから京都にしたの?

返す言葉が見つからない。むしろ何も言わない方がいいと思った。

桜夜は差し出された手をただ握った。
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