桜の下で ~幕末純愛~
壬生寺を出た時には14時を回っていた。

「お腹空くはずだよ。もう2時過ぎてる」

「話し過ぎてしまいましたね」

「…ううん。何食べる?」

結局二人は近くの蕎麦屋で軽く食べることにした。

その後、特にあてもなく市内を歩く。

ただ他愛ない話をしているだけで桜夜は楽しかった。

「お母さんにお土産買わなきゃね」

二人でどんなお土産がいいのか話をしていると、小さな櫛屋が目につく。

「櫛かぁ」

「よいのでは?」

そのまま櫛屋に入り、お土産を選ぶ。

「櫛を贈る意味を知っていますか?」

沖田が桜夜に言った。

「意味?」

「その様子では知らないのですね。」

沖田はクスッと笑う。

「どんな意味?」

「桜夜にはまだ早いですよ」

「は?何で?振ったのはそちらですが?」

結局沖田は教えてはくれず、美沙子のお土産を買って旅館に戻る。

その夜、歩き疲れたのか気付くと桜夜は眠っていた。

そんな桜夜を沖田は窓際から見つめる。

―私が人を愛しく想う日がくるとは―

―貴女に櫛を贈る日など…ないのでしょうね―

―翌朝

「桜夜。起きて下さい」

―桜夜と寝起きを共にするのは苦労するのですね―

再び桜夜の鼻と口を押さえた。

「ぶはっ。ちょっと、その起こし方やめてよっ」

「誰のせいです?」

沖田の顔がグッと近づく。

「わ…私だけど…ってか、近いよ」

「では、私が欲情する前に早く着替えてしまいなさい」

耳元で囁かれる。

「よ、よ、よ、よっ、よくっ」

顔を真っ赤にして後退りする桜夜。

沖田はクスッと笑い桜夜が寝ていた布団を畳みだす。

「さ、早く準備してしまいなさい。今日、帰るのでしょう?」

からかわれてる?遊ばれてるよね?いや、完全におもちゃにされてるよ、私。

とにかく、着替えてないとまた何されるか分かんないっ。

桜夜は急いで着替えを済ませた。

今日は市内を少し回り、15時には京都を出発した。

…濃い旅行だった…いろんな意味で。

短い様で長い京都旅行が終わった。
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