桜の下で ~幕末純愛~
ジンジンと鈍い痛みが治まった頃。

「あ、お父さんに入学の報告しよう」

桜夜は庭に向かう。

美沙子は何かある度に庭の桜に話しかけていた。

まるで亡くなった父親に話をする様に。

桜夜は今まで桜に話をするなど、した事はなかった。

ただ、今日は庭に行かなければいけない様な気がしたのだ。

「報告くらいしろって、言われてんのかな」

軽い気持ちで庭に出る。

桜の幹にそっと手をあて、目を閉じる。

お父さん、私、高校生だよ。

“桜は……な…事を………くれ…よ…”

父の声が聞こえた気がした。

「え?…お父さん?」

その時、桜夜の周りを風が吹き抜ける。

おめでとうって言ってくれたのかな?

が、風は強さを増し、桜の花びらが渦をまく。

えっ?ちょっと、強すぎだよ。

ギュっと目を閉じ、風に飛ばされない様にグッと足に力を入れた。

数秒間の出来事だった。

桜夜が目を開けると、そこには見知らぬ人が立っていた。

ーーーーーーーーーー

うわぁ~、綺麗な人。髪、長いけど…サラサラだぁ。

はっ。見とれてる場合じゃないや。ふっ、不審者?

だよね、どう見ても。

それに、何なの?あの格好。おかしいでしょ。コスプレ?

げっ、刀まであるし。レプリカだよね?じゃなかったらヤバイよ。銃刀法だったっけ?それだよ、それ。

どうする?どうする?

怖いよ~。怖いっ、怖いっ。お母さん助けて。

長い沈黙が続く。

先に口を開いたのは不審者にされている[沖田総司]だった。

「あの、お伺いしたいのですが、此処は何処なのでしょう?」

げっ、話しかけてきたっ。

「………」

どこって、あたしんちだよ。

勝手に現れて場所を聞くなんておかしいっしょ。

逃げたいのに、足が動かない…。

大声出せたら誰か、助けてくれるかな?

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