桜の下で ~幕末純愛~
「とっとと泣いちまえ。総司が帰ってくる前によ」

土方の言葉に桜夜の目から涙が溢れだした。

「知ってるんです。全てじゃないけど…この先を。総司の最期も…。私が生まれたのはここから150年も後の世界だから、皆が生きてないのは当たり前だけど…皆がどんな死に方をしたのかを知ってるんですよ。大和屋だって知ってた。なのに言えないんです…。でも、誰も私を責めないんですよ?責め立ててボロボロにしてくれた方が百万倍マシです。じゃなかったら私の記憶を消して欲しい…」

涙と共に堰が切れた様に話し出す桜夜。

土方は最期まで黙って聞いていた。

桜夜が話終えると静かに口を開く。

「俺にはどうしてやる事もできねぇ。ただ、この先もお前を責める事はねぇよ」

土方は桜夜の頭に手を置いたまま、その目は真っ直ぐ前を見据えていた。

「俺等は150年後でも語られる程になったんだろ?ならそれでいいじゃねぇか」

「え?」

「それがそれだけデカイ事ができたって証だろ」

「土方さん…」

「俺がじじぃになるまで生きて床の上で死んだのか、戦で死んだのかは知らねぇが、俺は最期まで戦って死にてぇ」

土方の言葉にいつしか桜夜の涙は止まっていた。

私は弱い…。弱すぎるんだ。

皆、前を向いてるじゃない。

自分の道を信じて進んでる。

もう泣くのは今日で最後にしよう。

―私は総司と一緒に生きたい―

「落ち着いたか?」

「はい」

「この先、悪い事ばかりが起こるとは限らねぇよ」

そう言って桜夜から手を離した。

「ありがとうございました。もう、泣くのはやめます」

私は強くなる。

「ああ」

悪い事ばかりじゃない…きっとそうだ。

楽しい事も必ずある。昨日だって笑ってたじゃない。

ん?楽しい事?豊玉発句集?ぷっ、もう一つ思い出した。

「笑えてんじゃねぇか」

「はい。凄く楽しい事を思い出したんです。何てお礼を言ったらいいのか…ね、豊玉さん?」

土方の顔がみるみる赤くなる。

「てめぇ!恩を仇で返しやがって!」

「さっきのは恩を売ってたんですか?それってヒドイ」

桜夜は笑って逃げ出した。
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