桜の下で ~幕末純愛~
そして八月十八日の政変がやってきた。

会津藩、薩摩藩等の公武合体派が長州藩を主とする尊皇攘夷派を京の政治中枢から追放。

もうじき壬生浪士組―新撰組―の最も輝かしい時期がやってくる。

それでも桜夜の日常は変わらない。

良い事は共に喜び、悪い事は共に悲しむ

過去を知る者としてではなく、一人の人間【稲葉桜夜】として過ごす様になった。

程無くして局中法度が作り上げられた。

一・ 士道二背キ間敷事

一・ 局ヲ脱スルヲ不許

一・ 勝手二金策致不可

一・ 勝手二訴訟取扱不可

一・ 私ノ闘争ヲ不許

―右条々相背候者切腹申付クベク候也―

桜夜は庭を掃きながらため息を一つついた。

「不服か?」

「土方さん」

いつもいきなり現れるんだからっ。

「何がですか?」

「局中法度だよ」

そりゃあ、不満あるわよ。これで沢山の人が死ぬんだからっ。

でも、これも進むために必要だったはずだから。

「いえ。多分ここに来てすぐならきっと不満だらけだったでしょうけど、今は違いますから」

「そうか」

土方はフッと笑った。

すると聞き覚えのない声が聞こえてきた。

「その女子は何だ」

誰?

二人は声の方に向く。すると土方は小さく舌打ちした。

「芹沢さん」

芹沢?芹沢ってあの芹沢鴨?

「珍しいじゃないですか。こっちに足を運ぶとは」

土方はそう言うと桜夜を隠す様に一歩前へ出る。

「…女子、来い」

こわっ。ムリムリ。

「江戸の沖田家よりお預かりしている者です。それにこいつは総司のですよ」

土方は桜夜を後ろにしたまま動こうとしなかった。

「ほぅ、沖田の…。ならば尚更だ。おい、女子、聞こえんのか。来いと言っておる」

「やだなぁ、芹沢さん。人の物を取らないで下さいよ」

そこに沖田が現れる。笑いながら言っている筈なのにその目には殺気を含んでいた。

「まぁ、いい。次の期にするとしよう」

芹沢はそう言うとニヤリと笑いながら消えていった。

こ…腰が抜ける。

桜夜はヘタリとその場にしゃがみこんだ。
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