桜の下で ~幕末純愛~
しゃがみこんだ桜夜の脇に沖田がやって来る。

土方は眉間に皺を寄せ腕組みをした。

「とうとう見付かってしまいましたか」

「あぁ、思えば今までよく見付からなかったもんだ」

あれが芹沢鴨…見られただけなのに怖かった。

「しかし、あの様子じゃ目ぇつけられちまったな」

目ぇつけたって…。

「桜夜、気を付けて下さい。次に会ってしまえば後がないですから」

気を付けろ?後がない?ってかどうやって気を付けんの?

「お前はいつも通り働いてりゃいい。後は俺等が気を配るしかねぇ」

「さっきみたいにいきなり来たらどうすんの?」

桜夜は沖田に聞く。

「さっきだって普通に庭掃除してただけだよ」

「それがない様に私達が気を配るんですよ」

そ、そっか…。私はあまり動き回るなって事だよね。

それからは少しだけ緊張しながらも普段と変わりなく仕事を続ける桜夜。

あれから二週間が経とうという頃。

桜夜は買い出しに出るため、門の前で永倉をで待っていた。

確か新八さんが行ってくれるって言ってたよね。

すると見知らぬ男が近付いてきた。

「おい、女。来てもらおうか」

はい?誰?

「聞こえているだろう。来いと言っているんだ」

小さい頃に習ったでしょ、知らない人について行っちゃいけませんって。

来いと言われて行く人はいないと思うよ?

大体、怪しさ満載の顔してるもん。

「芹沢さんがお呼びだ」

…芹沢?

余計に行くわけないっしょ。無理ですっ。新八さん早く来てよ。

男がどんどん近付いてくる。と、その時

「悪りぃな、遅れちまって」

永倉が男と桜夜の間に入った。

「ん?あぁ、新見さん。どうしたんっすか?」

永倉は白々しい台詞を吐く。

「その女に用がある。どいてもらおう」

「いやぁ、これから買い出しだし、またにしてもらえませんかね」

「芹沢局長の命だぞ」

すると永倉の声が少し低くなる。

「こいつは近藤局長預かりだ。用があるなら近藤さんに言ってくれ」

「………チッ」

新見は舌打ちをすると来た道を引き返していった。

それからは芹沢も新見も姿を表さなかった。

芹沢暗殺の日は近付いている。
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