桜の下で ~幕末純愛~
そして“その日”がやってきた。

「今日は遅くなりますからね。先に休んでて下さい」

沖田が朝一番に桜夜に告げる。

遅くなるって…そんな風に言われるのってテレるな。

単に同室だからなんだろうけど…。

「うん。どっか行くの?」

う…詮索してるみたいになっちゃった。

「ええ、島原で宴会です」

しまばら……島原っ!?あの島原?

ひじぃとか新八さんとか左之さんとか…エロ組がよく行ってる島原?

聞きたくなかったよ、総司の口から島原って言葉…。

はぁ、朝イチでテンションがた落ち。

勝手な妄想にクルクル変わる桜夜の表情に沖田が笑いだす。

「島原と言っても、私は少し呑むだけですからね。おかしな妄想はやめて下さいよ」

おかしな妄想って…バレバレじゃん。恥ずかしいっ。

「し、仕事してくるっ」

桜夜は少し顔を赤くして出ていく。

外は雨が降りだしていた。

午後、一通りの仕事が片付き、ナミと一緒にお茶をすすっていた。

「少し強くなってきたかねぇ」

ナミが雨音を聞きながら呟く。

「うん。こんなんで皆飲みに行くんですかね?」

「だろうね。今日は何だか話し合いも含めての宴会らしいからねぇ。珍しいもんだよ、あの土方さんが芹沢さんと一緒に呑むんだって言うからねぇ」

ひじぃが芹沢さんと?

島原…宴会…ひじぃ…芹沢…雨……。

芹沢鴨暗殺!!

今日なんだ…。総司、大丈夫かな…。芹沢さんの事、嫌いじゃないって言ってたのに。

いよいよ運命の時間は近づく。

夜になり、いつもより静かな屯所内。

桜夜は静かに部屋に居た。

寝てらんないよ。雨、ひどくなってきたな…。

時間が経つ毎に強まる雨音が不安感を煽っていた。

一方、島原の角屋では大宴会が開かれていた。

しかし、土方も沖田も、山南、原田はほとんど呑んでいない。

土方に至っては芹沢に酒を勧める始末。

不思議に思う者達もいたものの、島原という場に呑まれて皆、酒を煽っていた。

あれよ、あれよという間に芹沢にも酔いが回る。

―まだだ、まだ足りねぇ―

土方も沖田も酒を呑ませ続けた。

そして、芹沢の足取りが覚束無くなってきた頃を見計らい、屯所へ戻ろうと促した。
< 97 / 234 >

この作品をシェア

pagetop