私vs国連
「”幸せ”……?」
女が小さく呟く。
6年前、娘の『メイ』が殺されてから、そんな単語は忘れていたような気がする。
「……そうね、いつか……『幸せ』に……」
その乾いた2文字が乾いた心の中に落ち、転がっていく。
それは立ち直りつつあるこの村の風景のようにとても場違いで、そしてひどく自分に似つかわしくない単語だと女は思った。
”ママ、ママー!!”
まだ聞こえる、娘『メイ』の泣き声。
ゆらゆらと行き場を探す視線の先に、小さい6歳のメイが居た。
「おばちゃん、どうしたの?何を泣いているの?どこか、痛いの?」
あどけない瞳
甘い香り
明るく揺れる茶色い髪
柔らかく暖かい体
小さな『メイ』を抱きしめて、女は目を瞑った。
閉じられた瞼から涙が、抑えきれない悲しみが零れてくる。
”奥様……奥様の亡くなった娘さんと同じ名前をいただきました。わたしたちも奥様の娘さんのことをいつまでも忘れません……”
そう言った母親の腕の中で安らかに眠っていたあの赤ん坊は、今日、6歳になる。
「おばちゃん……?」
心配そうに首を傾ける幼い女の子に向かって、女は目頭を押さえて柔らかく笑った。
「なんでもないのよ。メイちゃん、6歳のお誕生日おめでとう!もう学校にも行ける年になったのね。お祝いしましょう!おばちゃん、たくさんお菓子持ってきたのよ」
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