覚めない微熱だけ、もてあましながら
すぐに裕也だとわかった。
愛子は急いでコートを着て携帯をポケットに入れ、鞄を持ってアパートを出た。
外に出ると、例の黒いスポーツカーの後ろ姿が見え、愛子は運転席へ近づいていった。
そおっと中を見る。裕也の横顔が見えた。携帯を触っていた。
コンコン……
……!!!
窓のノック音に驚いた裕也は、愛子だとわかりホッとして鍵を開けた。
「……お邪魔します」
「はいどうぞ」
……。
車の中は、いい匂いがした。どんな匂いかは説明が難しい。ただ、チャラい男の匂いには間違いないと思う。
「びっくりした?」
「えっ? 何が……ですか?」
「まさか、今日俺と二人で会うなんて思ってなかったんじゃない?」
……。
ドキッとさせる発言に何も言えなくなってしまった。
って言うか、いきなり話しかけてくること自体にびっくりした。主語がないから捉え方を間違えそうで怖い。いろんな意味で、怖い。
「どっか行きたいトコある?」