覚めない微熱だけ、もてあましながら
「あ、ブラック無理だった?」

「うん……。飲めるかなって思ったけど、やっぱり無理みたい」

「じゃあ、俺飲んでいい?」

「え……」

裕也は愛子の手から缶コーヒーを取り、飲んだ。

「俺は、ブラックの方が好きなんだ」

……。

「ごめんね。気がきかなくて」

「いえ、大丈夫です」

裕也は、まっすぐに、色とりどりに映る水面を見つめていた。

「あの……」

「何?」

「その、コーヒー……」

「うん」

「人が口つけたやつを飲めるんですね」

「あぁ~……平気だよ。って言うか、相手にもよるかな」

……。

「愛子さんのなら大丈夫だよ」

裕也は愛子の方は見ずに、一言つぶやいた。愛子は、遊び半分、真面目半分な言い方をした裕也の横顔を見つめる。綺麗な外の光が、キリッとした二重瞼を、まっすぐに通った鼻筋を、少し厚めの唇を照らしている。

黙って見ているだけで、段々気持ちがフワッとしてきた。それは、お酒を飲んで酔っ払った時の心地よさに似ている。
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