覚めない微熱だけ、もてあましながら


「夏野さん……」

「ん?」

「好きになったかもです」

……。

驚いた裕也は、虚ろな眠そうな目をしている愛子を見た。

「前に、夏野さんの会社の近くで会ったの覚えてますか?」

……。

「あれね、わざとなの。偶然を装って、会いに行ったんです……」

……。

「麻里と同じ会社だって聞いてたから……すぐに会いに行けると思って」

裕也は、体ごと愛子に向けたままで一言も口を挟まない。男経験が少なく、奥手な愛子なのに……。なのに、こんなにも饒舌に喋っている愛子の話に、ただただ聞き手にまわっているだけ。



しかも、告白をしてきたなんて――



愛子はこれ以上言うことがなくなり黙ってうつむいていた。膝の上に両手を並べて置き、手の甲や細い指先を見ている。

視界に、裕也が入る。夜の暗い車内でも視線を向けられているのがわかる。体を自分の方に向けられているのが、

……わかる。



裕也は何も言わない。ただ、愛子の横顔を見ているだけ。
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