覚めない微熱だけ、もてあましながら
深夜でも、その見慣れた風景はすぐにわかった。

安心感と、残念な気持ちが入り混じる複雑な心境。



車は、愛子のアパートの前でとまった。

「……ありがとうございました」

裕也の顔を見れずに、うつむいたまま礼を言った。

「どういたしまして」

……。

ドキドキしつつも、切なさの波も押し寄せてきている。裕也に言いたいことがあるのに。

最初の一言が、なかなか言い出せない。

「お嬢さん? どうしたの?」

「な、何ですか? また、お嬢さんって……」

「別に。何か、言ってみたかったから言っただけ」

……。

「帰らないの? 愛子さん」

裕也はわざと“愛子さん”と強調した。

「あの……また会ってくれますか?」

「うん。いいよ」

ほの暗い中に浮かぶ裕也のクールさと優しさが入り混じった微かな笑顔に、ドキドキが止まらない。

“さっきから言いたかったことが……言えた! 次の約束に結びつきそう!”

「楽しかったよ、今日」

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