覚めない微熱だけ、もてあましながら
私は愛子より上なんだから。

愛子よりも恋愛経験は豊富だし、

何よりも、



愛子より私の方が可愛いから。



麻里は昔からそう思い込んでいる。自分で思うほど、たいしたことはないことに気づいてはいない。

モタモタしてる暇はない。早く先手を打たなければ……愛子に先を越されてしまう。でも……今はとりあえず仕事に戻らなきゃ……。

麻里は、体調不良を装い自分の席へ戻っていった。



………………



午後六時になり、麻里は一目散に更衣室へ向かった。着替えは一分で済ませ、エレベーターで三階へ。降りると目の前のドアには[営業部]の文字が見えた。このドアの向こうには……。そう思うと急に心臓がバクバクしてきた。

“どうしよう……”

ドアに一歩近づき、ドアノブに右手をゆっくりのばした。

“でも……”

躊躇し、右手を引っ込めた。そして、ドアに片耳をつけようとした時、

「痛っ!」

ドアが開き、頭の横を思い切りぶつけた。

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