覚めない微熱だけ、もてあましながら
「今思えば何かバカみたいだよ。痛いよな、俺」

……。

「ねぇ」

「ん?」

「社内恋愛って、どう思う?」

「いいじゃん」

「え? いいって?」

麻里は思わず身を乗り出し裕也の顔を下から覗き込んだ。

「何かドキドキするって言うか、スリルあるよなー。社内恋愛って」

「だよね~」

麻里は裕也の顔を下から覗き込んだまま、にっこり笑った。

〈麻里流、男をその気にさせる仕草その1:可愛くにっこり笑う〉

「何?」

「は? あ、あぁ~……別に」

その気にさせる笑顔を見せてるつもりなのに裕也の素っ気ない言葉に一瞬だけ心が萎えた。

“こんな奴と社内恋愛なんて!”

と思った時――

「お前さ、誰かと社内恋愛したいの?」

「えっ! 何で?」

「顔が、そういう顔してる」

「は、はぁ? どういう意味よ!」

「だから、顔に出てるってこと」

そう言って裕也は麻里のオデコを人差し指で軽く押した。信号が、赤になるのを見計らってのことだった。
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