覚めない微熱だけ、もてあましながら
裕也は、麻里がのばしかけた左手を優しくつかみ、笑顔になる。その手は暖かく、気持ちまで暖かくなってきて急激に惹かれていくのがわかる。

「愛子には内緒だよ」

「わかったよ」

「会社の人達にも、内緒だよ。秘密の社内恋愛ね」

「超スリルだな」

「そ、そうだね……」

“何でこんなにドキドキするんだろう……。私みたいな恋多き女が、この男にドキドキするなんて!”

「今、何考えてたか当ててみようか」

「え? う、うん……」

「今、俺と二人きりだから緊張してる」

……!!!

「ほうら当たった」

裕也はにっこり笑い、ずっとつかんだままの麻里の左手と自分の右手の指を絡ませ、少し下を向いた。そんな裕也が少し可愛く思え、麻里は絡ませた五本の指に力を込めた。そして、

「ずっと、このままならいいのに」

自然にこんな言葉が出た。

「そうだね」

“何か、イイ雰囲気……あわよくば、今夜……”

麻里はニヤける顔を恥ずかしげな表情に変えながらチャンスを待った。
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