覚めない微熱だけ、もてあましながら
麻里は待ちきれない那奈子を適当にあしらい、キッチンへ行き、明が持ってきた紙袋の中をこっそり覗いた。

わぁ、おいしそう……。

中には小さいシュークリームがたくさん入っていた。麻里は特に那奈子の様子を伺いながらシュークリームをつまみ食いした。あと三人来たら全員揃う。



麻里は顔をクチャクチャにし心の中で〈おいしい!〉と叫んでいた。


段々、近づいてくる。


運命の、幕開け……。




………………




最寄りの駅の改札を出て、駆け足で階段を上がる。

午後七時――

仕事帰りのサラリーマンやOLで溢れている駅の改札。



カツカツカツ……



ブーツのヒールの音が響く。



――中谷愛子は、人ごみを交わしながら改札を出て、階段を駆けあがり地上に出た。

地上に出るまでに何人の肩にぶつかり何人に「すみません」と言ったことだろう。何で東京はこんなに人が多いんだろう……。
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