覚めない微熱だけ、もてあましながら
顧客は目を閉じたまま言う。この顧客は週に一度、愛子を指名してボディマッサージを受けている。30代半ばのキャリアウーマン、全身がコリ固まっている。


「いいことですか〜? う〜ん……あったと言えば、ありました」


愛子は正直に答え、肩甲骨を親指でゆっくり滑らす。


「すごく気持ちいい~」

「肩、こってますからね」

……。


顧客はそれ以上、何も言わなかった。微妙に寝息が聞こえてくる。

極上のリラクゼーションに眠ってしまっていた。ヒーリング音楽が流れる店内で愛子は施術を続けた。

曲と海の波の音が調和した音に、愛子の手がコリをほぐしていく。不必要な老廃物を、愛子の手が取り除いていく。誰もが、魔法をかけられ、魔法がとけた頃には身も心も新しくなって帰って行く。

一度魔法にかかったら病みつきになり、何度でも来てしまう。

マッサージは〈物〉じゃないから残らない。けっこうな金額もする。
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