覚めない微熱だけ、もてあましながら
なんで私なんかを?


疑問に思っていたが、嬉しさのあまり、疑問はどこかに置き忘れていた。



………………



赤坂見附駅、一番出口付近で待ち合わせをしていた。午後六時、地下鉄の階段を降りていく人の数がどっと増える。四方八方、キョロキョロしてしまう。本当に来るのか不安になる。

まだ五分前なのに……。

まだ五分あるのに……。

それなのに、遅いと感じてしまう。

どうやら気持ちが焦ってきている。


“どうしよう……すっぽかされたらどうしよう……”


愛子は、自分の足元を見つめた。

昨日の夜、いつもより気合いを入れて手入れしたブーツ。明と会う約束をしたから、汚い靴では恥ずかしいと思い一生懸命磨いた。

“明君……”



ボーッとしていたその時――


「わぁ~!」


愛子は叫んだ。ずっと下を向いていたら誰かが顔を覗き込んできた。

明だった。


「あ……」

「下向いてたからわかんなかったよ」

「だから覗き込んだの?」

「そう」


明はニッコリ笑った。


「はい。プレゼント」

「え? 何?」

「俺お手製の、ショートケーキ」

「本当に? ありがとう!」


愛子は、涙が出そうになった。すごく、嬉しかった。
< 46 / 147 >

この作品をシェア

pagetop