覚めない微熱だけ、もてあましながら
涙目になっているところを明には見られたくなかったから前髪を直すふりをした。


「なんか食いに行こうか」

「えっ? あ、うん……」

「なに食いたい?」

「あ……何でもいい。任せるよ」

「一番困るんだよな」


明は、愛子より前を歩く。

「え?」

「任せるって言われるとさ。それが一番困る」

振り返り、愛子と目線の高さを揃えながら言う。



ドキドキ……



ドキドキ……



胸の鼓動が早くなってきた。



ヤバい……



「よし! じゃあ、ここに入ろう」

「う、うん……」

たまたま通りかかった店を明は指を差した。

二人は暖簾をくぐった。中は、あたたかい匂いがする。おでん屋だった。

「今日も寒かったからさ~、おでんはあたたまるよ~。ついでに酒飲むともっとポカポカしてくるよ」

そう言って明は、熱燗を注文する。愛子はとりあえずチューハイにした。

「そんなジュースみたいなのでいいの?」

「……うん。とりあえず」

「あ、ごめん! 私、飲んじゃった。乾杯もしないで……ごめんなさい」

必死で謝り、頭をさげる愛子に、

「いいよ、大丈夫だよ。そんなに謝らなくて」

「う、うん……。それじゃ、か、乾杯……。お疲れ様でした」

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