覚めない微熱だけ、もてあましながら
「わかった。気をつけて」

「うん。ありがとう」



赤坂見附駅、一番出口の前で二人は別れた。愛子は、駅とは逆の方へ歩いていく明の後ろ姿を見つめていた。

見えなくなるまで、ずっと見つめていた。振り返ったらどうしよう……。

ドキドキしながらその後ろ姿から目を離さない……。

何だか急に寂しいというか切ない気持ちになってきた。段々胸の鼓動が早くなってくる。



……なぜ?



明君……。



やがて通行人に明の姿が紛れてしまい見えなくなった。

愛子は地下鉄へと降りていく。一人暮らしをしているアパートまでは電車も乗り換えだ。

赤坂見附駅付近には明の職場が近いという。今日会う約束をした時も明の方から待ち合わせ場所を指定してきた。なぜなら、中途半端にしている仕事を片付けたいからだと言う。アルコールを摂取していても仕事に戻れるのはある意味強者だ。

“乗り換え面倒くさいなぁ……でも楽しかったからいいや”

つり革につかまりながらそう思っていた。
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