覚めない微熱だけ、もてあましながら
プルルルッ……



四回目のコールで、

「もしもし」

“出た!”

かなり、尻軽な声をした男だ。

「もしもしっ! ……っと、あの~……由比ですけど……わかりますか?」

「わかるよ」

「ハハハッ……良かった」

なぜか笑ってしまった。

「……て言うかさ、昨日会社の廊下ですれ違ったじゃん」

「あ……あぁ~! 気がついたけど声かけるタイミング逃しちゃった」

咄嗟に嘘をついた。別に、どうでもいい嘘だ。

「ほんと俺って存在薄いんだな……なんか、ちょっとへこんだ」

「ご、ごめん……。そんなつもりはなかったんだけど……。それより、ちょっと用事があって電話したんだ……」

「何? ……っつーか用事ないと電話なんてしてこないでしょ?」

いちいちうるさい男にイライラしてくる。麻里は感情をおさえながら、

「近いうちにまた会いたいかなって」

「へぇ~」

裕也は、いたずらっぽく返した。

「あ、二人きりじゃないよ。愛子……覚えてる? 彼女も一緒に」
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