覚めない微熱だけ、もてあましながら
「愛子、何やってるの?」

「あれぇ? 箸の使い方、忘れちゃったかもぉ」

「もう……。酔っ払ってんの?」

「全然大丈夫!」

愛子は、いつもと喋り方が違っていた。

鳥の唐揚げを何度も落としている。何だか、子供がふざけて遊んでいるように見えた。諦めようともしない。

「しょうがないな……。はい」

裕也が軽々と鳥の唐揚げをつかんで愛子の取り皿に置いた。

「あ……ありがとう」

“えーっ! 何これ! 何かいい感じじゃない?

そう思った麻里は作戦に出た。

「あ、ちょっとトイレ行ってくるね」

「うん! 行ってらっしゃ~い!」

ハイになっている愛子は麻里に手なんか振っている。



麻里はトイレに駆け込み、大きく息をついた。

“しばらくの間は二人きりにさせておこう”

そう思い、呑気に化粧直しをはじめた。



………………



10分……いや15分が過ぎた。麻里が席に戻ってくる気配がない。

「遅いな……麻里」

< 63 / 147 >

この作品をシェア

pagetop