覚めない微熱だけ、もてあましながら
目を閉じて、何度も何度も匂いを嗅ぐ……というより、香りを楽しむといった感じで。

愛子の浅い眠りを促したのは裕也だった。

昨日居酒屋で告白してきたのは本心なのか、冷やかしなのかわからなかった。

けど、いずれにせよ愛子にとっては大事件だ。何せ男性とつきあったのは数えるくらいしかないから、昨日の告白はかなりのハプニングだった。衝撃が大きすぎて“明日仕事だから今日はもう帰る”と嘘をついたぐらいだ。もちろん告白に対しての返事はしていない……。

“何か……軽すぎるんだよな。あの人”

“見た目は真面目そうなのに。私に対しては遊びなのかな……”

裕也のことを考えているにもかかわらず、ふと明の姿が愛子の脳裏をよぎった。

「あ……」

どことも言えない壁の上の方を見ながら何かを思ったようだ。

財布だけ持って、コートも着ずにアパートを飛び出した。何軒か先にはコンビニがある。

愛子はスイーツコーナーの前に突っ立ったまま。カロリーの高そうな、見てるだけで満腹感に浸れそうな物が並んでいる。
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