覚めない微熱だけ、もてあましながら
すっぽかされたらどうしよう……という不安や、

緊張している自分に気を使ってくれる優しさや、



明――



あの時のことは、

今でも鮮明に覚えている。

茶髪にヒゲにピアスのパティシエが、

気になって仕方ない。



あの時以来連絡を取っていなかった。

元気にしてるかな……。仕事、頑張ってるかな……。

愛子は携帯のアドレス帳を開き明を検索した。メールを打とうとするが、うまく文章が浮かんでこない。

“元気? 仕事、頑張ってる?”

そう打ったがそのあとが浮かんでこない。

あまりにも短すぎる平凡な文章を白紙に戻した。



パタン……



携帯を閉じソファの上で横になる。白い天井を見つめ目を閉じて静かにしていると次の記憶が脳裏をよぎった。

昨日告白してきた男のことを、ふと思い出した。

“あの人……”

夏野裕也のことを、思い出していた。あのチャラチャラした態度に、振り回された自分に、嫌気がさした。

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