覚めない微熱だけ、もてあましながら


素直にそう思った。だが、この先更に愛子を惑わす男が現れようとは今の愛子には予想もつかなかった。



………………



「ただいま」

「おかえり。早かったね」

「うん。今日、四時限目休講になったから」

そう言って平田まことは、鞄をソファの上に軽く投げるように置き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。



ゴク、ゴク、ゴク……



半一気し、ふとリビングに目をやる。平田みかは、キッチンから見て背を向けているソファにだらしなく座り、テレビを見て笑っている。

平田みか。平田まこと。二人は実の姉弟で共同生活をしている。まことは音楽大学のピアノ科の三年生だ。大学を卒業するまでは生活費を浮かすために姉のみかと一緒に暮らそうと思っている。

みかは姉らしいことは何もせず、家事のほとんどをまことに押しつけている。家賃や水道・光熱費は半分以上は社会人のみかが払っているから、ほとんど居候に近いまことは何も言えなかった。

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