覚めない微熱だけ、もてあましながら
そして愛子はテーブルに置いてあった携帯を取り麻里に電話をかけた。平日の真っ昼間。麻里は仕事だが、愛子はそんなことは考えもせず電話をかけた。

数回のコールのあと麻里は、出た。

「はい」

「麻里」

「愛子~? どうしたの~?」

わざとらしい、作られた明るい声の麻里。だが、それはむろん愛子に対してだけ。

「実は……夏野さんに……」

それ以上何も言わずにいる愛子に、麻里はズルい顔をした。どんな表情をしていても電話だとバレずに済む。

「愛子。夏野君がどうしたの?」

「さっき、会いに行ってきた」

「えっ?」



“嘘……マジ!?”



予想外の愛子の回答に、麻里は言葉が出ず、えっ?と言ったきり黙ってしまった。

「ねぇ、麻里聞いてる?」

「あ、あぁ……ごめん。ちょっとビックリして……」

……。

「で? 夏野君と会ったってことは……デート?」

しばし沈黙があった。麻里のこの質問には愛子はすぐに答えずにいる。麻里はドキドキしながら、答えを待った。答えを待ちつつ、周りの目を気にしながら廊下に出た。
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